橋梁などの大型構造物の老朽化に対する延命手法の実用化について研究を開始しました。
〜2021年度自転車等機械振興事業〜
本校 材料システム工学科の佐々木大輔助教は、公益財団法人JKA(東京都港区、会長 笹部俊雄)から2021年度自転車等機械振興事業による補助を受け、「炭素コーティング鉄微粒子を用いた簡易延命手法の実用化」についての研究を開始しました。
【研究を行う背景】
国内の50%以上の橋梁は2033年に建設後50年以上となります。しかし,その8割は市町村が管理する橋梁が占め,すべての橋梁に対して大がかりな補修・補強を行うことは非常に厳しい状況にあります。補修期間を確保するため,橋梁を始めとする大型構造物の簡易延命手法の開発が求められています。ストップホール法や溶接補修など優れた簡易補修方法が存在していますが,これらの方法を以ってしても長く広く開いた10cm程度のき裂を補修することは困難であり,残された課題となっています。
さらに2065年には少子高齢化が進み日本の人口が8,808万人になる,と予想されています。超高齢化による就労者数の減少は,自治体の税収減を引き起こすため,現在より低コストで橋梁が維持管理できるシステムを構築する必要があります。
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研究成果の応用イメージ |
今回の研究は,公益財団法人 JKAから,社会的課題の解決に取り組む活動として支援を受け,構造物老朽化を解決に向けた補修技術の一翼を担うことを目的としています。補修が必要か否かの診断技術は高専機構内で研究が進んでおり,本研究はその診断技術と連携し簡易補修方法を用いた低コスト補修体制の構築を目標としています。これまでの研究で,金属微粒子とプラズマ焼結技術を用いたき裂補修と寿命の延命に成功しています。本技術は,損傷部に金属微粒子を充填し,プラズマ焼結を行うことで,き裂面内に焼結物を作成し,損傷部を補修する技術です。プラズマ焼結は試験片にパルス電流を流し加熱することで,短時間,低温での焼結を可能とします。このプラズマ焼結は,試験片の損傷部の局所的な加熱と補修を可能とします。
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本研究の実験イメージ |
金属は一般的に温度が生じると強度や延性が低下してしまうため,補修部分のみ加熱するプラズマ焼結が本補修方法の加熱には最適です。本研究では,炭素コーティング鉄微粒子を用いて,更なる延命に挑戦します。
具体的には,まず鉄微粒子に炭素コーティングを行い,炭素コーティング鉄微粒子を作成します.続いて試験片に作成した粒子を充填し焼結試験を行います。焼結後は硬さ試験・引張試験など短時間で焼結体強度を確認します。これらの実験により,最も硬さ・引張強度が高い炭素膜厚さを突き止めます。その作成した微粒子を用いて疲労試験片のき裂を補修します。補修をした試験片の疲労試験を行い,補修による延命効果を確認します。疲労試験中にその場観察を行うことで,同時に壊れ方を観察・解析し延命効果向上の指針を得ます。
本研究により構造物の疲労寿命を2倍にできれば,現在から20年後,建設50年以上となる構造物の寿命を20年延命することができます。つまり,補修対応に20年の猶予時間を設けることができます。また、他の新規構造物に対しても適用することで,構造物寿命は建設50年といわれますが、寿命を100年まで伸ばすことができます。以上により本研究では,社会全体の維持管理の経費と時間の削減,最終的には “持続可能な社会の実現“を目指します。
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炭素コーティング前後での鉄微粒子の変化 |